ミズタマリコネクト 1

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tochittan

tochittan (tochittan)


4時間目の授業がちょうど半分を迎えた頃だろうか。私は集中は、黒板ではなく下腹部に注がれていた。

3時間目の体育の授業の前に、水筒のお茶をがぶ飲みしたのが悪かったのか、膀胱にはたっぷりのおしっこが溜まっている。

それでも私は我慢を続ける。だって、中学生になって授業中にトイレに行く女子を見たことある? そんな、レアケースになるのが恥ずかしいと思い続けて我慢してきたが、授業はもう半分終わった。

残り25分。授業が終わったらすぐにトイレに駆け出すんだ。あっでも、さすがに走っていったら恥ずかしいか。

そんな余裕をかましていたが、少し経つと波が襲ってきた。脂汗が額に滲む。つい、股間を手で押さえてしまう。

幸い、私の席は一番後ろなので、大げさに押さえても誰にも気づかれない。2分間くらい、襲い来る波に抵抗を続けると、少し和らいだ。あと15分、たぶん耐えられる。たぶん。

やがてやってきたのは授業の終わり、ではなく第2波だった。

「んっ……んんっ…………はぁっ………」

唇は声が漏れそうになるのを必死に抑え、右手はおしっこが出ないよう股間を必死に押さえる。

左腕を腕枕にして机に突っ伏しながら必死に堪える。

もうダメかも。恥ずかしくても、手を上げて先生に…… そう考えながら手足に力を込めると、椅子が床を滑り、ギギギという音が静かな教室に響いた。

その音で、先生がこちらを見た。

「佐々木さん、顔色悪いけど大丈夫!? 保健委員だれ?」
「保健室連れていきます」

先生が言い終わる前に、彼は血相を変えて、私のほうへ駆け寄ってくる。それは、記憶の中のどのゆう君よりも真剣な顔だった。

「ゆみ、立てるか?」
「うん」

立ち上がったら今にも漏らしてしまいそうだったが、立ち上がらなかったら、それこそ漏らしてしまう以外の未来はない。虚勢を張ってでも「うん」と言った。

それから私は、太ももに力を入れて出口を押さえながら、足の裏に力を入れて、ゆっくりと立ち上がった。ゆう君は肩を支えてくれた。

みんなの前で股間を押さえるわけにはいかないので、お腹をさすりながらゆっくりとドアの方へ向かった。途中、強い波が襲ってきて立ち止まってしまったりもしたけれど、必死に我慢し、足を進めた。ゆう君は、私の肩を抱きながら、私のペースに合わせてついてきてくれた。

教室を出ると、トイレの方向に進み始めた。

「我慢できそうか?」

「保健室連れていきます」なんて言っていたけれど、ゆう君はお見通しのようだ。

席を立ってから1分以上が経過し、膀胱はより重たくなっていた。トイレは廊下の2教室先にあり、牛歩の私には気が遠くなるような距離だった。

「ダメ……かも……」

苦痛で立ち止まるたびに、パンツは液体を吸収していた。そう長くは持たないと思い、私はもう弱気になっていた。

「弱気なこと言うなって。我慢できないと思うから筋肉が諦めちゃうんだぞ」

ゆう君は前向きだった。もし私が漏らしてしまったら、汚れてしまう距離で肩を抱いてくれている。

「そう……だね……でも……っ」

また強い尿意が襲ってきた。中腰で、股間を押さえて波が過ぎるのをじっと待つ。

「んっ……んんんっ…………はぁ……はぁ……」

また数歩進んでは、波を耐える。次第に耐えきれる限界に近づいてくる。

襲い来るさらに強い尿意に耐えようとして、ついにしゃがみこんでしまった。私は、震える声で、ゆう君に限界を伝えた。

「も、もうダメ……だよ……。うご……けない……っ」

すると、ゆう君は目線を合わせて、やさしく頭をなでてくれた。

「そっか。がんばったな」

ちびっていた水流が勢いを増した。もう制御不能だった。

ぴちゃぴちゃ……。

押さえ続けた両手の指の間から、おしっこが溢れ出してくる。

静寂の廊下に、水の反射する音が静かに、けれど確かに鳴り響いた。

黄色がかった水たまりは、私の上履き、スカートの後ろ側の裾、そしてゆう君の上履きを濡らしていった。

また、ゆう君の前で漏らしてしまった。

「ごめんね、ゆう君」

どうしようもない不安と、またゆう君に迷惑をかけてしまった悔しさで、堪えてきた涙も溢れてきてしまった。

「そんなこと言うなよ。困ってるのはゆみのほうじゃないか」

私は首を横に振ってうつむいた。ゆう君はいつもやさしい。もっと恩返ししたいのに。そう思いながら、最後の一滴を出し切った。

しばらくすると、ゆう君は、終わったことに気づいたのか、「ちょっと待ってろよ」と言い残して走っていった。水たまりを見て悲しくなりながら待っていると、大量の雑巾とバケツを抱えて戻ってきた。

ゆう君がひとりで掃除を始めてしまったので、「私もやるから」と雑巾をひったくり、乾いた雑巾でおしっこを吸い取った。

最後に上履きを乾拭きし、床を水拭きして、片付けが終わった。持ってきた雑巾をぴったり使い切り、ゆう君の手際の良さに驚いた。

「ゆみは保健室に行ってて。俺は雑巾洗ったら行くから」

「うん、わかった……。よろしくね」

もう「ごめん」とは言わなかった。そう言う度、ゆう君は悲しそうな顔をするから。

階段の踊り場まで来て、ポケットティッシュを取り出し、パンツや脚やスカートの裾を拭いた。気休め程度にしかならないけれど、ゆう君の前でやるには少し恥ずかしかったのだ。

養護教諭になんて説明しようかと、恥ずかしさで不安になりながら、保健室に向かった。保健室に入ると、ベッドがひとつ使われており、この会話を誰かに聞かれていると思うと、さらに恥ずかしくなった。

「し、失礼します……。あの、トイレ……間に合わなくて……」

「あら、大変だったね。汚れちゃったのは、下着だけ?」

「スカートも少し……」

そう言ってから気づいた。たぶんスカートを替えたら体操着になる。教室に戻ったらみんなから「どうしたの?」って聞かれる。

「あ、あの、ちゃんと拭いたので、大丈夫そうならスカートのままでいたいなぁなんて……」

お漏らし中学生のレッテルへの恐怖感から、言い訳をしてしまった。

「ちょっと一周してみて。…………大丈夫そうだね」

とても安堵した。どうやら誤魔化せそうだ。

汚してしまったところは片付けてきたことを告げると、先生は替えの下着を持ってきてくれた。

「空いてるベッドで着替えておいで。午後の授業が始まるまでここにいていいから」

着替え終え、イスに座っていると、4時間目の終わりを告げるチャイムと共に、ゆう君が保健室に入ってきた。

「ゆみ、調子は?」

「大丈夫。午後の授業には出るよ」

「そっか。もう教室戻れる?」

「お腹押さえて教室を出ていったのに、普通に給食食べてたら変だよね、あはは。だから休み時間はここで休むことにするよ」

精一杯の自嘲だった。もう心配しなくていいよって、伝えたかった。

「わかった。俺は戻って『ゆみは大丈夫そう』って報告してくるよ」

そう言って手を振りながら、保健室を出ていった。

困っているときにいつでも手を差し伸べてくれるゆう君は、ずっと私のヒーローだった。
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