快楽、幸福、憧憬

pakutoma
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pakutoma @pakutoma
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怪文書です。とある方から窃取した想像によって書かれています。フィクションです。特に薬効が。

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「ああ、今日もまたおくすり飲んじゃったなあ」

インターネットで買ったおくすりを、今日も飲む。謳い文句は、安心安全、いつでもやめられる、とっても幸せ、みたいな感じだったような。安心安全かもいつでもやめられるかも分からないけれど、とっても幸せであることは、もう理解していた。幸せって、なんだろう。ずっと目指していた目標を達成すること?自分の頑張りを認められること?本当に好きな人に愛されること?このお薬は、そのどれも与えてくれない。ただ、気持ち良さを与えてくれる。どんな気持ち良さかというと……。オナニーのときの、気持ち良さ。それを、何倍も何十倍も気持ち良くしたような気持ち良さを、与えてくれる。でも、私はこのお薬で気持ち良さだけでなく、幸せを感じてしまっていた。一人遊びの快楽を何倍何十倍にしたような快楽は、達成感や承認なんかを一つ飛ばし二つ飛ばしして、幸せを与えてくれる。私はこのお薬を初めて使った時に、それに気がついてしまった。

「あ、気持ち良くなってきた……」

今日は土曜日だから、明日のことを考えなくても大丈夫。高校に入って一人暮らしを始めたのは幸か不幸か。いや、社会的に見たら不幸なのだろう。だけども今の私は自分を必ずしも不幸だとは感じていないし、10分後の私は100%の幸せを享受しているのだと思う。幸福な未来に期待しているという意味では、今の私よりも幸せな人間はいないのではないか。思考の掴みどころがなくなってきたことを自覚しながら、そんなことを考える。幸せだ。私を包む気持ち良さが、下腹部からではなく脳からもたらされていることを自覚する。私は下腹部から幸福を感じるような人種ではない、なんて考えが頭をよぎる。そんなことを考えなくても幸せでしょ、と自分を戒める。幸せ。難しいことを考えられないことを自覚する。難しいことなんて考えなくても幸せであることは出来る。幸せなのだから。

「んっ……あーっ……あっ、ふー」

全身に幸せが回って来ている。ベッドに触れている皮膚から、タオルケットに直接触れている足や手から、暑くないようにと着替えた薄手のパジャマに触れる太ももや肩から、下着に包まれた背中や下腹部から、気持ち良さが伝わってくる。もう喋っても呂律が回らないだろう。スマホを触っても文字もまともに打てないに違いない。でも、幸せを感じること、思考することは出来る。体から力が抜け、ベッドのスプリングに身を任せる。沈み込む自分の身体と、沈下する自我との重なりを感じる。腕を体に添わせるようにそっと動かす。腕を包み込んでいるタオル地が擦れて、私に幸せを強く与える。息切れがする。動かした腕で、自分の体を抱く。肌と肌とが触れ合った場所から、二重の快楽が伝わる。少しの虚しさと、強い幸せ。息は更に荒くなる。冷静に、極めて冷静に背中に腕を回す。私が今から行うことが、更なる幸せを求めるための単なる作業であると言い聞かせる。自分の欲求に理由付けをする。下着のホックを外し、外した下着を抜き取る。下着をベッドの脇に落とす。パジャマのボタンを上から三つ外し、右胸を左手で包む。

「あっ……ふー、んっ……」

右手が幸せを求めるために動く。腰を浮かせ、ハーフパンツを膝上まで下ろす。そこに、右手が触れる。

「んんっ……んっ……あっあーっ、あぁ……っ」

幸福感は既に全身を包んでいる。人間が生きていて感じることのないような、真に満たされた幸福感が脳から全身へと脈打つように注がれている。びくびくと全身が震えている。幸福の中で、両手は気怠げに快楽の核を刺激する。刺激を受けた感覚器官は、誇張された快楽を脳へと伝える。快楽は脳髄をとろとろに溶かして、働くのをやめた脳はただ更なる幸福を全身に注ぐ。

「あーっ、あっあっ、んっ……んーっ……。あー……。きもちい、きもちい……」

なにも考えられない。指は勝手に動いて、ただ私の体から気持ち良さを貪る。とろとろに溶けたあたまは、気持ち良さを受け取って幸福を吐き出す。

「ん、んーっ……あっ、ふー……。あっあっ、んーっ、ん、はーっ……。ん、あー、とろとろ……」

快感に耐えられなくなる度に身体は震え、脳にぱちぱちと放電を残す。筋肉が収縮し、弛緩する。その全てが気持ち良い。幸せを全身で感じる。

「ん、はー、はっはっ、んんーっあっあっあっ、んーっ…………」

突然訪れた強い快感の波に、意識を攫われる。視界が真っ白になる。思考が弾け、ほんとうのしあわせがやってくる。きもちいい。きもちいい。きもちよさの中で、自分の存在もとろとろと溶ける。しあわせに包まれて、自分がほんとうに救われたことを感じている。しあわせ……。

「はー……、はー……、はー……、ふー……」

意識が戻る。幸せは、まだ私を包んでいる。気を失っていたのは数分程度だったように思う。右手で太ももの間に触れて、そこまでは汚れていないことを確かめた後に、ハーフパンツを履き直す。ベッドの脇に落ちた下着を拾うことは諦め、パジャマのボタンを留め直す。心地よい眠気がある。気だるさの残る身体の求めに従い、瞼を閉じることにする。

薄れゆく意識の中で、「ああ、また休日を無駄にしたなあ」と考える。私の休日、そして一時の幸せ。両方をかけた天秤の針が左右に振れるのを見ながら、深い眠りへと落ちていった。