kb10uy「保登心愛さんとセックスしないと出られない部屋にいる」

pakutoma
Author:
pakutoma @pakutoma
メニュー

kb10uy ShortStoryServer v1 時代の作品 https://ss.kb10uy.org/post/20 を再投稿したものです。 作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、発表当時のまま投稿しています。

作品をシリーズに追加すると、シリーズのページからもこの作品にアクセスできるようになるほか、 登録されているシリーズが作品ページにも表示されます。


信じられないかもしれませんが、僕は今保登心愛さんと、セックスをしないと出られない部屋にいます。

目の前には保登心愛さんが実際にいますし、僕と一緒にこの部屋についての説明も受けたんです。

決して僕の頭がおかしくなったわけではありません。

話は数十分前に遡ります。

大学から帰宅する途中、満員電車の中で急にくらっと意識が遠のきました。

その次の瞬間、目を開けた僕は真っ白な部屋の中に立っていたのです。

僕はあまりに突飛なことに混乱することも出来ず、どこか冷静にこれが夢かそうでないかを考えていました。夢にしては現実的すぎる自分の身体の感覚と、現実と考えるにはあまりに白すぎる部屋に戸惑っていると、どこかから声が聞こえてきました。

「ようこそ、kb10uyさん」

窓すらない完全な直方体のような部屋にはスピーカーも見当たらず、その声は脳内に直接話しかけてくるように感じられました。

「え、あっ、はい」

突然ハンネを呼ばれる程度の突飛さがどうでも良くなるほど異様な空間で、僕は突っ込むことも驚くことも出来ずにただ返事をしてしまいました。

「kb10uyさんには、今からお呼びするもう一人の方とこの部屋についての説明を受けていただきます。よろしいですか?」

「あ、よろしくお願いします」

有無を言わせぬ口調にただただ頷くばかりでした。何がよろしくお願いしますなのか僕にもよく分かりません。

「では、お呼びしますね」

ブゥン、という鈍い音ともに僕の隣の空間が歪み、まるでゲームのワープゾーンのような緑色の光柱が現れました。緑色の光柱が薄れていき、そこに立つ人のことを認識した瞬間、僕に雷に打たれたような衝撃が走りました。

そこに立っていたのは、木組みの家と石畳の街、ラビットハウスのアルバイト。桃色のハイライトが入った栗色のセミロング、アメシスト色の瞳が輝く天真爛漫な元気娘。そう、保登心愛さんその人だったのです。

言葉が出ませんでした。保登心愛さんが目の前に存在しているのです。僕の目の前で周りをきょろきょろとして「えぇっ!?」とか「ここどこ……?」と呟いているのです。感動のあまり息が出来ないということを僕は今体験して……

「あ、あの……ここってどういう場所なんでしょうか?」

僕に話しかけている!

保登心愛さんが僕に話しかけている!!

とにかく保登心愛さんに話しかけられているということは僕は速やかに答えを返さなければいけないのですが僕もこの場所については何も知らなくて、ああどうすればいいんだ!

「あー、僕もちょっと分からないんですよね、ははは」

なんとか無難な応答を返すことが出来ました。

「さて、お二人が揃われたところでこの部屋についての説明をさせていただきます」

また例の脳内音声が流れ始めました。保登心愛さんは天井を見ながら首を傾げています。非常に可愛いです。

「この部屋ですが、端的に言うとセックスをしないと出られない部屋、というものです」

「「セックスをしないと出られない部屋……」」

大抵のことではもう驚かないと思っていた僕も、そのあまりの現実感のなさに一瞬放心してしまいました。僕はエロ同人の世界にでも来てしまったのか?

保登心愛さんは少し顔を赤らめています。この異常な状況でもそのような反応を示す純真さは素晴らしいですね。ところで僕は保登心愛さんがセックスという言葉を解していることについてドキドキが止まりません。

「この部屋にいる限り、老化や病気、死などは起こりません。この部屋から出た時は、この部屋に来た時と全く同じ時刻、同じ状態に戻ります。ただ、お腹が減ったり眠くなったりはしますので、言っていただければサポート致します。」

「また、この部屋から出る方法はお二人がセックスする以外にはありません。ですが、こちらから特にセックスを強要するということもありませんので、ご自由に過ごしていただいて結構です。」

「外部との連絡は取れませんが、欲しいものがございましたら可能な限りご用意いたします。」

「説明は以上となります。ごゆっくりセックスをお楽しみください。」

説明が終わったようです。なんだか随分と都合のいい部屋らしいです。ファンタジーじみていますね。

「……」

保登心愛さんは顔を真っ赤にして俯いています。とても可愛いです。

とりあえず、危害を加えないことだけは伝えた方が良さそうですね。また、自己紹介もしましょう。僕の方は保登心愛さんのことを知りすぎるほど知っていますが、向こうは僕のことなんて知らないでしょうから。

「えーと、保登さん。まず、僕はそういうこと、する気は無いので安心してください。それでなんですけど、多分今すぐにここを出るのは無理みたいなので、とりあえず自己紹介しませんか?」

「は、はい!よろしくお願いします!」

「僕は、kb10uyって言います。これはなんというかハンドルネームみたいなものなんですが、一応ここではその名前で呼ばれているみたいなので。『けーびー』と呼んでもらえると嬉しいです」

「けーびー、さんですね。はんどるねーむ、っていうのはあだ名みたいなもので合ってますか?」

「そうですね、そんな感じです。あ、あと敬語使わなくていいですよ、僕もタメ口の方が話しやすいし」

保登心愛さんにはタメ口で話しかけてほしいという願望が僕にはあります。

「じゃあ、そうさせてもらおっかな。私は、保登心愛って言います。ココアって呼んでね。というかさっき私の苗字呼んでなかった……?」

「あー、それはあの声が言ってたので」

「そっか!なるほどね」

一度話し始めたココアさんは、僕に対してもとてもフレンドリーに話しかけてくれました。この状況で僕の立場にある人間と親しげに話せるのもよく分かりませんが、それがココアさんのいい所ですね。

ここから30分くらい自己紹介(と言ってもほとんどココアさんが僕に対して質問をするという感じでした)をして、今に至ります。

「ココアさん、お腹空かない?」

「そういえばもうお昼食べてからだいぶ経ってるかも、おなかぺこぺこ。」

「あのー、夕食を出してもらうことって出来ますか?」

天井に向かって話しかける僕は、少し滑稽に見えるかもしれません。

「承知しました。ご用意いたします」

しかしこれ以外に話す方法がわからず、そしてとにかくこれで連絡は取れているようでした。

返事が来てすぐに、僕らの後ろにある床がぬるりとせり上がって、夕食の乗った真っ白なダイニングテーブルと椅子が現れました。それを見た僕はTwitterで見た金属加工のデモ作品みたいだなと思っていたのですが、ココアさんにはちょっと不気味に見えたようです。

「ええええぇぇぇっ!?」

訂正します、相当不気味に見えたようです。

「こ、これ、食べられるの?」

僕もそれは少し不安だったので、ココアさんの毒味役として少しかじってみることにしました。

夕食は、パン・ビーフシチュー・サラダといういかにも洋食という感じのようです。多分これも細かく指示すればその通りのものを用意してくれるのでしょう。近づくといい香りがして、食欲が湧いてきます。

一口大に切られているフランスパンを口に運んでみます。手で持つと暖かい。ほかほかです。

「美味しい!」

皮がパリッとしています。フランスパンの味の善し悪しはあまり分かりませんが、パン屋さんで売っている人気メニューだと言われても納得するような味です。

「本当だ、美味しい!」

何より、ココアさんが美味しいと言っているのだから本当に美味しいのでしょう。彼女のパンへの熱意は本物です。

「じゃあ大丈夫そうだし食べようか。いただきます。」

「いただきます!」

ビーフシチューとサラダもとても美味しいです。ここにいる限りご飯の質には困らないかもしれません。

ココアさんも美味しそうに食べています。良かった。

「「ごちそうさまでした!」」

僕の方が食べるのが少し早いようで、微妙に食べる速度を調節しながら(という名目でココアさんが小さなお口でフランスパンやサラダをほおばるのを眺めながら)食べ、二人で一緒に食べ終わりました。

その後、食後のコーヒーを出してもらってココアさんが銘柄当てをして、見事に外してどこからか聞こえてくる声に突っ込まれたりだとか、歯を磨きたいと言うと壁から洗面台がぬるりと出てきてココアさんがまたびっくりしたりだとかがあり、ココアさんと僕が段々と馴染んできたな、と思った頃、それは起こりました。

「そろそろお風呂かなぁ、あれ?お風呂ってどうするのかな?」

ココアさんの発言に答えるように、脳内に声が響いてきます。

「お風呂ですか、ご用意致しますね」

今度は部屋の角あたりの床から、浴槽とシャワーがぬるりと出てくる。

壁はなし。そう、壁がありません。

「壁とかって……?」

声が響いてきます。

「ご用意出来ないですね」

そして僕は、今まで運良く考えなくてよかった問題に辿り着いてしまうのです。

「あれ、もしかしてトイレとかもこんな感じですか?」

「そうなりますね、大変心苦しいのですが」

「え、それってトイレが丸見えってことですか?」

「そうなります」

「えぇぇぇ〜〜〜〜!?!?!?」

ココアさんの絶叫。

女の子ですから、そんなことが許容できるはずもありません。

「カーテンとかをかけることも出来ないんですか!?」

「カーテンはレールなどを用意出来ないので……一応ついたてを用意することは出来ます」

「ついたて……まあないよりはずっと良い、かなあ」

本当にそこを妥協点にしても女の子とし良いのかはさておき、他に選択肢がないのだから仕方ありませんね。

もちろん僕としては全てが大歓迎ではあるのですが、それをそのまま出したりはしない程度には僕はまともな人間です。

そんなわけで、用意してもらったついたてを立てて、お風呂に入ってくることになりました。

お風呂の順番はじゃんけんで決めて、僕が先です。

「じゃあ、先にお風呂いただくね」

「うん。けーびーくんどうぞ」

ついたての奥に入り服を脱ぎます。ついたての布が薄くなっていて、シルエットが透けている気が少ししますが多分気のせいでしょう。あとでじっくり見るなんてことはしないと心に決めました。

服を脱ぎ終わって、湯船に浸かる前にシャワーを浴びていると、部屋のもう片方の角のついたてをずらす音が微かに聞こえました。もう片方の角にあるのは、そう。トイレです。

しかし僕はkb10uyの名に誓って紳士ですから、慌ててシャワーを最大に強めました。音姫の電子音がシャワーの轟音に小さく混ざる中、僕は無心で頭を洗い続けたのです。

ココアさんに対しては紳士でいたいのです。どうか信じてください。

「上がったよ、ココアさんどうぞ」

「うん、入ってくるね」

頭の中の煩悩と戦いながらの入浴を終え、ココアさんの入浴が始まります。

そう、ここからが本当の地獄なのです。

ココアさんがついたての奥に消えると、白い布からうっすらとココアさんの影が見えます。見てはいけない、そう思う心とは裏腹に、僕の目はラビットハウスの制服を脱ぐそのシルエットから全く目が離せなくなっていました。

おぼろげに見えるココアさんの身体と脱がれていく服、少し低いついたてから時々見える服を掴んだ手、衣擦れの音。

ココアさんがスカートのホックを外して脱いだように見えた時、僕はなんとか本能に打ち勝って目を閉じて耳を塞ぐことが出来ました。ココアさんに信頼されている、という思いは何よりも勝ります。

シャワーの水音が耳を塞いだ手のひら越しに聞こえてくる頃には、僕の心は落ち着いていました。本能に勝ったのです。

僕はココアさんに倣って用を済まし、髪を乾かして眠る準備を始めました。

ココアさんが少し長めのお風呂から出てきた頃には、僕は少しうつらうつらとしていました。ココアさんの湯上がりの上気した顔、湯気が上がり湿った髪と汗ばんで長い髪が数本張り付いた首筋、そして愛らしいパジャマ姿を目にして、遠ざかりかけていた意識は瞬間的に目覚めてしまいましたが。

ココアさんが長い髪をドライヤーで丁寧に乾かしている間に、僕はベッドを用意してもらうことにしました。

「すみません、ベッドを用意してもらえますか?」

「承知しました」

恒例のようにぬるりと床から出てくるベッドには、僕はもう驚かなくなりました(ココアさんは少しビクッとなっていましたが)。

僕にとって、そしてココアさんにとっても問題となったのは、そのベッドがキングサイズのベッド、つまり二人分が繋がっていることでした。

「あの、ベッドを二つ出すことは出来ないんですか?」

「スペースの問題もありますし、何よりこちらも設定上の都合で難しいですね。ご了承ください」

僕もココアさんも忘れかけていましたが、ここはただの謎の部屋ではなかったのでした。

部屋側から能動的に"そういうこと"をさせるわけではなくとも、このような部分はあるのでしょう。

「まあ、しょうがないね。けーびーくん、一緒に寝よっか。」

「え、流石に僕は床で寝るよ。女の子とし同じベッドで寝るわけには」

「大丈夫だよ。こんなに広いし、それに私けーびーくんのこと信じてるから。」

「でも……」

「このお部屋の人の話が本当なら、私たち少なくともしばらくはここで寝ることになるんだから、けーびーくんも私も一緒に寝ることに慣れないと、けーびーくん疲れちゃうよ。だから一緒に寝よっ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

そして僕とココアさんはベッドに入りました。ココアさんはベッドのココアさん側のちょうど真ん中あたりに。僕はベッドの僕側の端ギリギリに。僕たちがベッドに入るのと合わせて、部屋が暗くなりました。

「ねぇ、けーびーくん」

「どうかした?ココアさん」

「私たち、いつ帰れるのかなあ」

「うーん、部屋の人にしか分からないかもね」

「チノちゃんやリゼちゃん、ラビットハウスのみんなと離れるのは寂しいよ、早く帰りたい……」

「早く帰れるといいね」

「うん……」

今のところ、二人はこの部屋の真の目的からは目をそらしているので、見方によってはいかがわしいその発言も、狭い部屋の空気に切なさを含ませるだけでした。

ココアさんはそれから、ラビットハウスのみんなの話をぽつぽつと話し続けていましたが、話が途切れ途切れになっていき、眠りに落ちていきました。僕はココアさんの寝顔をしばらく見ていましたが、彼女の目に浮かぶ涙を見つけてしまい、いたたまれなくなって目を閉じていたら、いつの間にか寝入っていたようです。