ある体育の授業

tochittan
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tochittan @tochittan
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その日の授業は、走り高跳びだった。授業開始前からトイレに行きたいと思っていたが、なかなか言い出せず、友だちの助けを借りてやっと授業から抜け出せたが……。

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「はっ……はっ……」

下腹部が重い。振動が、伝わる。

「んっ……はぁっ……」

踏み切った瞬間、お腹が遠心力でかき回される。

ぱたん。

衝撃で、顔がゆがむ。でも、平静を装わなきゃ。

慎重に立ち上がり、何事もなかったかのように、また列の後ろまで歩いた。


3時間目の授業は、時間ぴったりに終わった。チャイムが鳴り終わって、みんなぞろぞろ移動を始めている。4時間目は体育だ。

体育の授業は、45分をフルに使う。つまり、授業開始時刻には校庭に整列している、というのがこの学校での日常だった。

5分しかない休み時間に着替えを行わなければならない、そう思い、私は、授業中に感じていた尿意から目を背け、着替えを持って出かけた。

校庭に出ると、思いのほか脚が冷えるなぁと感じた。同時に、かなりの尿意があることを思い出した。

(ダメそうなら先生に言えばいいかな。)

なんて、のんきなことを考えながら、朝礼台の前に集まる集団まで駆けていった。


その日の授業は、走り高跳びだった。走り高跳びというと、背中から、きれいな弧を描きながら飛ぶ、そんなイメージだったが、学校の授業でやるレベルでは、足でまたぐだけでいいらしい。ちょっと意外だった。

そんなことを思いながら、説明を聞き終わり、実際に飛んでみると、お腹への刺激の強さに驚いてしまった。

(これはちょっとまずいかも……。)

そう思うも、今すぐ漏れそうなわけでもないので、まだ我慢することにした。

ばたん。からんからん……。

何度も飛んでいるうちに、尿意は強まり、記録は伸び悩んでいた。股間を押さえるのは恥ずかしいので、ハーフパンツの裾をもじもじと触りながら、やりすごしていた。

一度、我慢している自分が恥ずかしいと思うと、先生に言いだすのが余計に難しく感じてきた。


「あ……。う……。」

今にもトイレに駆け出したい気持ちを抑えながら、裾を握りしめていると、

「ねぇ、大丈夫?」

後ろから声をかけられた。一緒に回っている友だちだ。

私は、虚勢を張る余裕も残っていなかった。

「あっ……あう……その……。トイレ……。」

周りには聞こえないような声で打ち明けた。

「やばいの?」

「うん……。」

そう答えると、とても恥ずかしくなって、うつむくしかなかった。視界には、ハーフパンツの裾をつかむ、自分の手が映り、惨めな気持ちになった。

「先生に言い出せなかったの?」

「うん……。」

「じゃあ一緒にいこっ。」

「……うん……。」

ひとりでは何もできない惨めさと、これで解放されるという安堵感を胸に、友だちに手を引かれながら先生のもとに向かった。


「ね? 大丈夫でしょ? ほら、行ってきな。」

先生の許可をもらった私は、一目散にトイレに向かって駆け出す……余裕もなかった。でも、立ち止まったら限界を悟られちゃう、その気持ちで足を前へ前へと動かし続けた。

トイレは校舎側、つまり校庭を横断した先だ。お腹はじんじんと痛み、歩みは遅く、間に合わないかもという思いが頭の中を満たした。

(ここで漏らしちゃったら、みんなどう思うだろう……。)

そう思うと、胸の中から不安が込み上げてきて、今にも泣きそうになってきた。

(ここでしちゃったら、どんなに気持ちいいだろう……。)

そんな縁起の悪い考えも浮かんだが、それでも不安に突き動かされて歩みを進めた。


「えっ……。あっ……。そんなっ……。」

もう誰も見ていないと、股間をぎゅーっと握りしめながら、立ち尽くした。トイレの鍵は、開いていなかった。

私は完全に忘れていた。校庭のトイレは、運動会のような行事のときにだけ開放されるのだった。

「はぅ……。んっ……。」

もう限界だと思った。間に合わないと思った。それでも、まだ当てはある、そう信じた。社会的動物の本能だけが、頼りだった。

痛むお腹と股間をさすり、汗なのかおしっこなのかもわからない濡れたパンツに不快感を感じながらも、玄関で靴を脱ぎ散らかし、校舎へ向かった。

右手はじとっとしたハーフパンツ、左手は冷えたコンクリートを押さえながら、よたよたと、校舎の奥へ向かう。1階の生徒用トイレまで、あと30m。本当に我慢できないと思った。悔しかった。なんで私がこんな目に、そう思った。悔しさで、視界がぼやけてきた。

あと25m。泣き叫びたかった。トイレまでたどり着けない自分が悔しくて悔しくて仕方なかった。

あと20m。涙が頬を伝い、そして足が止まった。このまま止まっていれば、いずれ漏らす。そんなことはわかっていた。それでも、もう神頼みしかできなくなった。

天を仰いだそのとき、左手を着いているこの扉が、保健室の扉だということに気づいた。助けが欲しかった。救いが欲しかった。誰でもいいから助けてほしかった。私は、悔しさと恐怖に震える手に精一杯の力をこめて、扉を開けた。

バーン。

扉は大きな音を立てて開き、保健室の先生と目が合った。

苦しそうに泣いている私を見た先生は、異常事態だと思い、私に駆け寄りながら「どうしたの?」と声をかけてきた。

「おしっこっ……! おしっこぉ……!」

頭の中がおしっこで一杯で、それしか声が出なかった。

「大丈夫、大丈夫だから、ね。」

先生は目線を合わせ、やさしくささやきながら、頭をなでてくれた。

「あっ……。うぅ……。」

「ほらっパンツおろして、しゃがんで。大丈夫だから。」

先生はすべてを察して、そう言ってくれた。一刻も早くおしっこがしたい私は、無我夢中でパンツをおろした。

ぱたぱたぱたぱた……。

完全にしゃがみきる直前、解放の時は訪れた。

シューーーーー!!!!

パシャパシャパシャパシャ

おしっこは勢いよく床に流れ出す。気持ちが緩んだ。もう我慢しなくていいんだと思うと、天にも昇るような気分になった。

しかし、一瞬にして、おしっこは私の靴下を濡らした。生暖かかった。トイレではない場所でおしっこをしているという事実を、この上なく突き付けた。

シューーーーー!!!!

パシャパシャパシャパシャ

恥ずかしい音が、保健室に響き渡っている。

早く、終わってほしかった。生きた心地がしなかった。それでも、尿道括約筋は緩んだまま、排泄は続いた。

先生は、ずっと頭をなでてくれていた。こんな私を、助けようとしてくれる人がいる、それだけが、救いだった。


ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ……。ぽた……ぽた……。

排泄を終えた私は、放心状態だった。

お尻が、すーすーする。足が、冷たい。

だんだんと状況を思い出してきた。お尻丸出しで頭をなでられている。おしっこの匂いがする。とても恥ずかしくなってきた。

先生のほうを見ると、先生の靴や白衣も汚してしまっていて、申し訳なくなった。

「あ、あのぅ……。」

「大丈夫よ、保健室なんだから。授業、戻れそう?」

「あ……。う……。」

こんな泣きじゃくった顔の私が、授業に戻れるだろうか、とても不安に思った。

「靴下だけ変えればバレないわよ。」

「はい……。」

そう言うと、先生はタオルと替えの靴下を持ってきてくれた。

立ち上がると、太ももをおしっこが伝っていく感覚がして、急いでタオルで股間を拭いた。

靴下を履き替え、水たまりを見てどうしようと思っていると、

「ほら、ぼーっとしてないで。記録、まだ出てないでしょ?」

と声をかけられた。迷惑をかけてしまった保健室の先生のためにも、私は授業に戻らなければいけないと思った。

「は、はい……あの、ごめんなさい! あと、ありがとうございました!」

私は最大限のお辞儀をして、保健室をあとにした。

「さっ、片付けますか。」


必死に涙を拭って、顔を整えながら、授業に戻ると、あと1回飛べるくらいの時間があった。

友だちには

「大丈夫だった?」

と聞かれた。私は

「あ、危なかったけど大丈夫だったよ。」

そう言いながら、保健室の床にしてしまった恥ずかしさと、嘘をついた罪悪感でいっぱいになった。

最後のジャンプは、あまり振るわなかった。